『虚構に捧げる愛』
夜の場面を、昼間カメラにフィルターをかませて撮影する手法(デイ・フォー・ナイト)そのものを題名に採用した作品。『パメラを紹介します』という架空の映画の撮影において、トリュフォー自らが映画監督に扮して、次々に発生するトラブルを乗り越え、映画を完成に導くスタッフたちの奮闘ぶりが描かれている。
同じ映画撮影現場をテーマにしたゴダールの『軽蔑』という作品があったが、ゴダールが映画(特に商業映画)への対決姿勢を崩さなかったのに比べて、本作品にはトリュフォーをはじめとするスタッフたちの映画作りに対する愛情があふれている。登場人物たちの台詞も、実際の撮影現場でトリュフォーが書き留めたメモからの引用が多く、けっしてゴダール作品に登場するような難解なアフォリズムではない。
猫に朝食の食べ残しのミルクを飲ませるシーンで、何回もテークを繰り返した後、ようやく取り替えた子猫がミルクをなめだし、スタッフ一同ほっと胸をなでおろすシーンが個人的にはとても気に入っている。緊張した現場に一瞬流れるなごやかなムードをもう一つのカメラが逃さずとらえていた。『大人は判ってくれない』を思わせる、トリュフォーの少年時代の夢も、巨匠の映画本を包みから取り出すシーンにも、トリュフォーの映画に対するまっすぐな愛情を感じないではいられない。
商業主義を否定するヌーヴェル・バークの同士として立ち上がったトリュフォーとゴダールではあるが、袂を分けてからの虚構としての映画への接し方は180度異なっている。それは最愛の女に、ひたすら愛を語る男とわざと冷たい態度をとる男の違いに似ている。