『掲載情報が古くなりつつあるかもしれないが、類書に見られないテーマは評価できる』
スペイン現代事情を概観する書で、出版は98年5月です。
2章4項「ラテンアメリカとスペイン」で、スペインと中南米でのtuとUstedの用いられる範囲に違いがあり、スペイン人の気安さが中南米ではぞんざいと受け取られる点は社会言語学的に大変面白いところです。この章を執筆している野々山真輝帆氏はこれまでもスペインの文化や社会を平易な言葉で紹介してきた実績のある人物だけに、その文章のわかりやすさには好感が持てます。
4章「多言語国家と言語の共存」はスペイン言語学学会会長を務める、この分野ではスペインを代表する人物が執筆しています。ですが、和訳があまりにも読みにくくて大変残念です。「すべからく」という日本語を「ことごとく」の意味に誤用しているなど、言語を扱う章の和訳としてはお粗末です。
6章「映画からみたスペイン社会」ではフランコ政権下の検閲制度や外国映画への対抗措置などについて興味深く読みました。スペイン語への吹き替え制度が国民の理解を助けるためというよりは、保守的価値観にそぐわない台詞を密かに削除する手段として用いられていた点などは、言論統制の巧みさと空恐ろしさを感じないではいられません。
アルモドーバルの映画の表題「Que’ he hecho yo para merecer esto?」を「何でこんな目にあうの?」と和訳していますが、本書出版時には「グロリアの憂鬱」という題名で日本でもビデオ販売されていましたから、その邦題で表記したほうが良かったのではないでしょうか。
8章「歴史からみたスペイン社会の特質」ではフェリーペ2世をフィリップス2世(180頁)、カール・マルテルをチャールズ・マルテル(187頁)と英語風に記述している点が納得できませんが、イスラム影響下のイベリア半島の様子を限られた紙幅の中で簡潔に記述して点は大いに参考になりました。
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